会長挨拶

人口転換と脳卒中—Population Transition and Stroke

第41回 日本脳卒中学会総会
会長 寳金 清博
(北海道大学大学院医学研究科脳神経外科 教授)

寳金清博

この度、第41回日本脳卒中学会総会会長を拝命いたしました。北海道大学は、脳卒中の外科学会を過去2度開催させていただいておりますが、日本脳卒中学会の開催は初めてのこととなります。改めて、歴史と伝統ある本学術総会をお引き受けする責任と名誉を感じております。

会期は、平成28年4月14日(木)~ 16日(土)の日程で、札幌市(ホテルロイトン札幌、さっぽろ芸術文化の館、札幌市教育文化会館)において開催いたします。これまでと同様に、日本脳卒中の外科学会(伊達勲会長、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経外科 教授)とスパズム・シンポジウム(糟谷英俊会長、東京女子医科大学東医療センター 脳神経外科 教授)との合同開催となり、Stroke2016として、開催いたします。また、脳卒中学会は、外科・内科の広い領域をカバーするため、内科領域から副会長として、寺山靖夫教授(岩手医科大学医学部 神経内科・老年科)、平野照之教授(杏林大学医学部 脳卒中医学)のお二人に、リハビリテーション領域から生駒一憲教授(北海道大学病院 リハビリテーション科)にお手伝いいただくことをお願いいたしました。

テーマは「人口転換と脳卒中—Population Transition and Stroke」といたしました。人口転換は、戦争や壊滅的な災害、あるいは、致死的な感染症の蔓延など、限られた特殊な条件下で起こるものと考えられており、歴史上は極めてまれにしか起こらないものと考えられておりました。

しかし、我が国が、上記以外の理由により発生する人類史上稀有な人口転換という巨大なうねりに遭遇することが確実になっております。「少子化」と「高齢化」という二つの人口転換によって特徴付けられる特殊な事態が、人類史上、予想もできなかった速度で進行しているのが我が国の現状です。我が国を含む東アジアの「高齢化」は、その速度と程度において、人類史上例を見ないものであり、「超高齢化」と表現されております。医療者はもちろんのこと、全ての国民、あるいは、国境を越えて全ての人間の運命を左右する問題であり、ここ数十年、私達や私達の後輩、子供たちが、避けて通ることのできない、日常の中に常態化して存在する深刻な問題となることは明らかです。

皮肉なことに、「少子化」と「高齢化」という2つの現象の中で、「高齢化」の決定的な原因が、私たち医療者がもたらした「技術革新」「医療の進歩」にあることは間違いありません。その意味では、私達・医療者は、この深刻な問題の「無垢なる」生成者であり、そして、この問題と最前線で向き合わなければならない宿命を背負っております。中でも、脳卒中の最大の危険因子が「加齢」であることを考えると、脳卒中医療を担う私達の責任は、どんなに強調してもし過ぎることのないものです。脳卒中の予防・軽症化による「健康寿命の延伸」という生命倫理がある一方で、癒すことのできない深刻な病態も必ず起こり得るのが現実の医療です。そうした、言わば、「不都合な真実」を直視する機会を提供することも意識して、本学会を企画しております。不都合な真実を直視することは、辛いものです。しかし、次の時代の脳卒中への希望を見いだすためにも、この時点で、全体を俯瞰することは必要不可欠です。

本学会では、高齢化と向き合う他の関連学会の協力も得て、広い視野から、高齢化の中での脳卒中医療を学ぶ機会を提供したいと思っております。当然、超急性期の治療ばかりではなく、慢性期の治療、脳卒中の予防・先制医療、あるいは、機能再生への挑戦と言った脳卒中医学のサイエンスを中核に据えます。しかし、その背後にある介護医療制度や地域格差を生む公共医療制度の問題点などの論客も交えて、私達・脳卒中医療を担うものが、今後、超高齢化社会の中で目指すべき方向を議論し、出口を模索する端緒としたいと考えております。

ここ数年、本学会は、3月に開催しておりました。ただ、今回は、札幌市での開催となります。3月の札幌市は、時に雪模様となり、遠くからいらっしゃる皆様の交通手段に影響を及ぼすことを危惧し、4月中旬の開催とさせていただきました。4月の札幌は、まだ、桜の開花もなく、肌寒いことも予想されますが、何卒、多くの会員、関係者の皆様のご参加をお願いします。年度初めのご多忙な中とは存じますが、精一杯のおもてなしで、お迎えいたします。早春の札幌で皆様とお会いできること、教室員一同、心からお待ち申し上げます。